新型コロナウイルスの治療薬・治療薬の候補について
この記事では、現在開発されている治療薬について説明していきます。(2020年7月22日時点)
治療薬
レムデシビル(ベクルリー)
エボラ出血熱の治療のために、ギリアド・サイエンシズ社に開発された抗ウイルス薬です。
5月7日に日本で新型コロナウイルス感染症治療薬として認められ、アメリカでは5月1日に緊急使用許可が出されています。
副作用としては、急性腎障害、肝機能障害があります。
レムデシビルで新型コロナウイルスを治療するためには、通常5日間で6本の点滴をする必要があります。1本の値段が先進国では約4万円となっており、治療するためには約25万円が必要になります。
新型コロナウイルスは指定感染症であるため、患者は公的医療保険によって、治療薬を無償で提供されます。
現在日本は、ギリアド社からレムデシビルの無償提供を受けており、重症患者に対して提供されています。
ギリアド社が出しているレムデシビルを投与した新型コロナウイルス患者に関するデータは以下の通りです。
- レムデシビルの静脈注射を5日間と10日間投与した新型コロナウイルスの入院患者312人と、症状が近く投与しなかった場合の患者812人のデータを分析したところ、14日目までに投与を受けた患者の74.4%が回復、通常の治療を受けた場合は59.0%が回復。
- レムデシビルを投与した場合の14日目の死亡率は7.6%、投与しなかった場合の死亡率は12.5%
- 小児の患者の83%と妊娠中・産後の女性の92%が投与から28日撫でに回復。
- レムデシビルととヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)を同時に投与すると、回復率がレムデシビルのみの投与の時よりの低くなることが分かっています。
デキサメタゾン
7月21日に日本で2例目の新型コロナウイルスの治療薬として厚生労働省に認定されました。デキサメタゾンは1960年代初頭から、アレルギー反応や関節リウマチ、喘息など様々な疾患に利用されるステロイド系抗炎症薬で、すでに日医工が製造をしており、保険にも適応されています。
コロナ患者に投与される1日の金額は670円となっており、安価で提供することができます。研究の結果、軽症患者の治療には効果が得られないが、重症患者への治療には効果があることが分かっています。
日医工は、新型コロナウイルスの治療のためにデキサメタゾンを十分な陵の供給ができることを伝えています。
デキサメタゾンについて分かっていることを以下にまとめます。
- デキサメタゾンの投与によって、人工呼吸器が必要としていた患者の死亡率が41%から27%に低下すること(オックスフォード大学)
- デキサメタゾンの投与によって、酸素吸入のみを必要としていた患者の死亡率が25%から20%に低下すること(オックスフォード大学)
- デキサメタゾンの投与は、呼吸器の介助を必要としない人には効果が得られないこと(オックスフォード大学)
ファビピラビル(アビガン)
新型コロナウイルスの治療薬として富士フィルム富山化学によって開発されました。現在、新型コロナウイルスの治療薬としての承認を目指しており、富士フィルムは今月中にクウェートでの1000人規模の治験を始める予定です。
またアビガンは胎児の健康への悪影響を及ぼすことがわかっているので、妊娠の可能性がある人、妊婦には使用できません。
アビガンについて分かっていることを以下にまとめます。
- 急性すい炎などの治療薬として使われる「フサン」とアビガンを併用して投与することで、11人の患者のうち、10人の症状が改善された(東大)
- 無作為比較試験によって、アビガンを投与することで患者の体内のウイルスが消えるといったことは確認できていない(藤田医科大、7月10日)
シクレソニド(オスベルコ)
シクレソニドは気管支喘息の治療薬として、2007年に帝人ファーマによって開発された吸入用ステロイド薬で、気道の慢性炎症の抑制に効果があると言われています。
現在、新型コロナの継承、中等症患者を中心に臨床での使用が行われています。
シクレソニドについて分かっていることを以下にまとめます。
- 複製の際に生じる変異を修正する酵素の働きを抑え、複製そのものを阻害すること(群馬パース大)
- シクレソニドは副作用が少なく、臨床医にとって使いやすい(群馬パース大、木村教授)
- シクレソニドがSARS-CoV-2に対して、強い抗ウイルス活性を有すること(国立感染症研究所)
ナファモスタット(フサン)
ナファモスタットは急性膵炎などの治療薬として、日医工らによって開発されたたんぱく質分解酵素阻害物質です。
ナファモスタットについて分かっていることを以下にまとめます。
- ファビピラビルとの併用によって患者11人のうち、10人の症状が改善されたこと(東大)
- レムデシビルよりも600倍の効果を持つことを期待できること(韓国パスツール研究所)
トシリズマブ(アクテムラ)
トシリズマブは関節リウマチの治療薬として、スイスのロシュと中外製薬によって開発された抗IL-6受容体抗体です。現在新型コロナウイルスに対する有効性を調べる臨床試験が行われています。
バリシチニブ(オルミエント)
バリシチニブは関節リウマチの治療薬として、アメリカのイーライリリーによって開発されたJAK阻害薬です。現在400人に対して治験を行っています。
その他の新型コロナウイルスの治療薬候補
- カモスタット(フオイバン):タンパク質分解阻害剤
- イベルメクチン(ストロメクトール):駆虫薬
- サリルマブ(ケブザラ):抗IL-6受容体抗体
- トファシチニブ(ゼルヤンツ):JAK阻害剤
- ルキソリチニブ(ジャカビ):JAK阻害剤
- ラブリズマブ(ユルトミリス):抗補体(C5)抗体
- アカラブルチニブ:BTK阻害薬
- エリトラン:TLR4拮抗薬
- イブジラスト:PDE阻害薬
- LY3127804:抗Ang2抗体
- オチリマブ:抗GM-CSF抗体
- HLCM051:体性幹細胞
- ADR-001:間葉系幹細胞
現在臨床試験が行われているワクチンについて
7月14日時点でWHOの調べによると、160品目のワクチンが開発され、このうち26品目は7月末までに人への投与を行う臨床実験を行うこととなっています。この記事では、いくつかのワクチンを取り上げて説明していきます。(2020年7月22日時点)
ChAdOx1-S/AZD1222
イギリスのオックスフォード大学とアストラゼネガによって開発されているウイルスベクターワクチンです。コロナウイルスの遺伝情報をもったゼンダイウイルスを投与するワクチンです。9月には供給を始める予定であり、今年から来年の間に20億回分のワクチンを生産できる見通しが立っています。
使用するアデノウイルスそのものに毒性があり、発熱や風邪の症状がワクチンを投与した人ほぼ全員に出現していることが分かっています。(オックスフォード大)
また過去の遺伝子治療で肝機能障害で死亡した方もいるので、慎重に投与する必要があります。
1度ワクチンを投与すると、アデノウイルスの抗体が体内にできるため、2回以上ワクチンを投与することはできません。現在フェーズ3が実施されています。
不活化ワクチン(中国シノバック)
アラブ首長国連邦で1万5000人を対象に臨床試験を開始しています。既にフェーズ2までを中国で終了しており、重篤な副作用は出ておらず、現在はフェーズ3が実施されています。
mRNA-1237
アメリカのモデルナ・アメリカ国立アレルギー・感染症研究所で開発されているmRNAワクチンです。第1相臨床試験は、18歳から55歳の健康な成人45人に実施され、初回の接種から15日後までに全ての患者に新型コロナウイルスのスパイク蛋白質に結合する抗体が現れており、1回目より2回目の接種のほうが結合価は高くなっています。また、安全で忍容性が高く、重篤な症状は報告されていません。
第2相臨床試験では、同じく18歳から55歳の健康な成人300人に対して、実施されています。第2相臨床試験では、同じく18歳から55歳の健康な成人3万人に対して、実施される予定です。
BNT162b1
ドイツのビオンテックとアメリカのファーザーが共同開発しているmRNAワクチンです。健全な成人45人に対して行われた、第1相臨床試験で安全性が確認され、患者に抗体が作られることもわかっています。重大な副作用も見つかっていません。
INO-4800
アメリカのイノビオが開発したDNAワクチンです。18歳から50歳までの健全な成人が参加した第1相臨床試験では、ワクチンを投与した36名のうち34名に何らかの免疫反応が認められています。副作用は、10件ほど薬剤注入部位が赤くなるということがありましたが、重大な副作用は報告されていません。
2020年夏には第2、3相臨床試験を開始したいとしています。また、2021年1月までに安全で効果のあるアクチンを3億分提供することを目指しています。
その他の臨床試験が行われているワクチン
- NVX-CoV2373(アメリカのノババックス):組み換えタンパクワクチン
- AG0301-COVID19(アンジェスと大阪大):DNAワクチン
- SCB-2019(中国のクローバーバイオ、イギリスのグラクソ・スミスクライン):サブユニットワクチン
- MT-2766(カナダのメディカゴ):植物由来VLPワクチン
- (中国カンシノ・北京バイオテクノロジー研究所):ウイルスベクターワクチン
- (中国シノファーマ・武漢生物製品研究所):不活性化ワクチン
- (中国シノファーマ・北京生物製品研究所):不活性化ワクチン
- (中国医学科学院医学生生物研究所):不活性化ワクチン
- (ドイツのキュアパック):mRNAワクチン
- (イギリスのインベリアル・カレッジ・ロンドン):RNAワクチン
- 参考情報
- 新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】(10月23日UPDATE)
- 産経BIZ:中国ワクチン開発最終段階 シノバックなどが年内実用化目指す
- 新型コロナウイルス感染症治療薬候補の臨床試験/研究に関する文献情報