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アトピー性皮膚炎の悪化因子と対策について

アトピー性皮膚炎は多因子性疾患に分類されます。
多因子性疾患とは、「遺伝子的な問題」や「生活習慣などの環境の問題」といった複数の影響を受けて症状が発症したり、悪化してしまう疾患のことを指します。アトピー性皮膚炎以外では高血圧や糖尿病がその例です。
アトピー性皮膚炎と付き合っていくには、症状が悪化する原因の「悪化因子」を把握し、自身でできるものは対策をとることが不可欠です。

日常で受ける刺激

アトピー性皮膚炎は皮膚が乾燥や湿疹で痒みに敏感になっている状態なので、日常生活で受けるさまざまな皮膚への刺激で症状が悪化することがあります。

唾液や汗は、洗い流すか、柔らかい布で拭き取ることが望ましいです。
ごわごわした素材の衣類の刺激や、髪の毛の先端部の接触などの軽い刺激でもかゆみが出やすいです。刺激の少ない衣類を選択したり、髪の毛を短く切る、もしくは束ねるなどして工夫が必要です。

身体を洗う際は、ナイロンタオルのような硬い素材でこすると、皮膚のバリア機能の低下や物理的刺激によって炎症の悪化につながります。また、石鹸などのすすぎ残しや使いすぎによる刺激で炎症につながる場合もあるので適度に洗浄しましょう。
かゆみから皮膚を搔くことによる刺激はアトピー性皮膚炎を悪化させる重要な要因です。掻いても皮膚が傷つかないように爪を短く切るなどかきむしらないように工夫をしましょう。

接触性アレルギー

外用薬や化粧品、香料、金属、シャンプー、消毒剤など接触アレルギーで皮膚の症状が悪化することがあります。
アトピー性皮膚炎の治療が期待通りの反応ではない場合や、皮膚症状がアトピーの典型的な場所へ分布していない場合、成人が最近になって発症あるいは悪化した、などの場合は接触アレルギーを合併している可能性があります。

接触アレルギーが疑われる場合は、まずアレルギーを疑う物質との接触をさけることで皮疹が軽くなるかを観察し、パッチテストで診断が確定されます。診断が確定したあとはアレルギーの原因物質との接触を避けることが必要になります。

食物性アレルギー

アトピー性皮膚炎患者のうち、特に乳児では食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の症状に影響を及ぼすと考えられています。
これは「卵アレルギーが疑われる乳児には卵の除去食がアトピー性皮膚炎改善に有効であるかもしれない」と研究データが出ているためです。

しかし、小児や成人のアトピー性皮膚炎の治療にアレルゲン除去食(アレルギー症状を引き起こす可能性のある食物を含まない食事)が有用だと示す根拠は乏しいのが現状です。
アレルゲン除去食は、不適切な除去によって栄養学的な問題や成長・発育障害を引き起こす可能性があるため、専門医との相談が必要です。
また、アレルゲンの除去は薬物療法の補助療法にあたります。アトピー性皮膚炎の悪化に特定の食物アレルギーが影響していることが明らかになった場合でも、アレルゲン除去食のみで完治が期待できるものではありません。

吸入性アレルギー

乳児期以降のアトピー性皮膚炎患者は、ダニ、ほこり、花粉、ペットの毛など、空気中に浮遊するアレルギー物質によって悪化することがあります。
ただし、これらの物質がアトピー性皮膚炎の悪化因子であるかどうかは、症状やアレルギー検査の結果だけでなく、病歴や環境の変化、症状の推移などの情報を総合的に判断する必要があります。

ダニ対策としては、布団に掃除機をかけたり、抗ダニシーツを使用することが有効です。また、ペットのシャンプーを頻繁に行い、毛を落とさないようにすることも重要です。

花粉症の場合は、マスク、点眼、点鼻薬などの対策がありますが、これらは薬物療法の補助療法に過ぎません。特定の吸入性アレルゲンがアトピー性皮膚炎の悪化に関与していることが明らかになった場合でも、アトピー性皮膚炎の完治が期待できるわけではありません。

発汗

汗をかくことはアトピー性皮膚炎の症状を悪化させる場合がありますが、同時に肌の水分保持や保湿に役立つ成分が含まれているため、症状の程度によっては良い影響も与える可能性があります。

ただし、高温多湿な環境では余分な汗の成分が皮膚表面に残り、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させることがあります。また、アトピー性皮膚炎の人は汗の成分が変化しやすく、効果を得にくいことがあります。

そのため、汗をかいた後は通気性が良く吸湿性の低い肌着を着用したり、シャワーを浴びるかタオルで拭いたり、濡れた衣類を着替えるなどして、皮膚表面に余分な汗の成分が残らないようにすることが大切です。

細菌

人間の皮膚には多様な種類の細菌が生息しており、その種類やバランスは肌の状態によって異なります。アトピー性皮膚炎の患者の皮膚には、黄色ブドウ球菌という細菌が数多く検出されることがあります。そのため、これまでに除菌や静菌を目的としたポビドンヨード液や次亜塩素酸などの治療が行われてきました。

近年の研究により、細菌とアトピー性皮膚炎の関係が少しずつ明らかになってきています。小児アトピー性皮膚炎患者の症状が悪化している場合、皮膚に存在する細菌の種類が減少し、黄色ブドウ球菌が増加することが報告されています。動物を用いた実験でも、細菌のバランスが異常な状態で黄色ブドウ球菌が含まれている場合、アトピー性皮膚炎のような皮膚炎を引き起こすことが示されました。また、抗菌治療によって細菌のバランスを調整することで皮膚の炎症が抑制されることも報告されています。

しかしながら、現在でも細菌とアトピー性皮膚炎の病態の関連性については研究が進んでいる段階であり、今後の研究が必要とされています。

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