インフルエンザの予防投与とワクチン接種の目的は、それぞれ違います。そして、予防投与を検討する前に知っておくべき注意点もあります。
この記事では、予防投与を検討中の方向けに効果や持続期間、ワクチンとの違いについてわかりやすく解説します。受験や大切な会議など別日に変更できない予定があるなら、予防投与も検討してみましょう。
インフルエンザの予防投与について
予防投与を行うことでインフルエンザウイルスが体内で増殖するのを防げます。
ただし、予防投与で100%発症を防げるわけではありません。あくまで発症率を下げたり、発症した場合でも重症化を予防したりするのに有効という点に注意が必要です。
では、インフルエンザの予防投与について詳しく見ていきましょう。
発症を予防できる確率
インフルエンザの発症は予防投与により「7〜8割」が防げると考えられています。
完全には防げませんが、それでも高確率で予防できるため、試す価値はあります。受験前や大事な仕事を控えている方にとって、有効な予防策と言えるでしょう。
インフルエンザワクチンと予防投与の違い
インフルエンザワクチンと予防投与の決定的な違いは、有効期間にあります。
インフルエンザワクチンは長期間にわたって発症や重症化を予防する目的で投与されます。一方の予防投与は、インフルエンザ治療薬を内服している期間だけ発症率を下げるのが目的です。
また、インフルエンザワクチンは誰でも摂取可能ですが、 予防投与は投与対象者が一定の条件を満たす必要があります。詳しくは次の見出しで解説します。
対象者
厚生労働省によると、インフルエンザウイルスの暴露を受けた者(インフルエンザウイルス感染者と接触した可能性がある人)は、無症状または症状が軽くても 感染拡大の観点から予防投与が推奨されています。
予防投与が推奨される具体的な人は、以下のとおりです。
- 感染者の同居人(家族など)
- 感染者と濃厚接触をした可能性がある人(学校や職場)
- 医療従事者や水際対策関係者
- 地域封じ込め実施地域の住民
とくに以下の条件に当てはまり、同居している家族がインフルエンザに感染した場合は、重症化予防のためにも予防投与を検討することをオススメします。
- 高齢者(65歳以上)
- 慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
- 腎機能障害患者
- 代謝性疾患患者(糖尿病等)
該当する方は自分自身や周りの人を守るためにも、予防投与も選択肢の一つとして持っておくと良いでしょう。
適応期間と服用日数
予防投与の適応期間は「感染者と接触して36時間以内」の投与が原則です。なぜなら、接触後に数日間の潜伏期間を経て発症するからです。
潜伏の可能性がある期間にインフルエンザ治療薬を内服して、ウイルスの増殖を押さえて発症を予防します。一方で、36時間以上経過するとウイルスが侵入後に増殖している可能性が高く、予防効果が弱いです。
また、予防投与では受診先にもよりますが、基本的にはインフルエンザ治療薬を10日間に渡って内服します。内服薬の種類や量については、年齢や状態によって決められるため、まずは病院で相談することをオススメします。
使用薬剤
インフルエンザの予防投与には、主に以下の4種類の薬が用いられます。
- タミフル(オセルタミビル)
- リレンザ(ザナビル)
- イナビル(ラニナミビル)
- ゾフルーザ(バロキサビル)
タミフル・リレンザ・イナビルの3種類は「ノイラミニダーゼ阻害薬」と呼ばれ、体内に侵入したインフルエンザウイルスの増殖を防ぎ、発症を予防する効果があります。タミフルは内服薬で、イナビルとリレンザは吸入薬です。
ゾフルーザは「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤」と呼ばれ、インフルエンザウイルスが人間の細胞内で、自分の遺伝情報を転写・翻訳するのに用いる酵素活性を阻害する効果があります。
簡単に言うと、インフルエンザウイルスが人間の細胞に感染する過程で邪魔をして感染しないようにするイメージです。
- 参考資料
- 医療法人 大河内会 おおこうち内科クリニック"インフルエンザの予防投与"(参照2023/10/2)
- みどり病院"抗インフルエンザ薬の予防投与って?~効果と持続期間・かかる費用を解説します~"(参照2023/10/2)
- 厚生労働省"抗インフルエンザウイルス薬に関するガイドライン P84"(参照2023/10/2)
- KEGG DRUG Database"医療用医薬用品:タミフル"(参照2023/10/2)
- KEGG DRUG Database"医療用医薬用品:リレンザ"(参照2023/10/2)
- KEGG DRUG Database"医療用医薬用品:イナビル"(参照2023/10/2)
- 一般社団法人 日本感染症学会"キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬について"(参照2023/10/2)
予防投与の前に知っておくべき3つの注意点
予防投与の前に知っておくべき3つの注意点について詳しく解説します。
注意点①:「医薬品副作用被害救済制度」の対象外になる可能性がある
インフルエンザの予防投与は厚生労働省の示す「医薬品副作用被害救済制度」の対象外になる可能性があるため、注意が必要です。
医薬品副作用被害救済制度とは、医薬品を正しく使用したにもかかわらず副作用が生じて健康被害を受けた場合に、医療費や年金などの給付が行われる公的な制度のことです。
インフルエンザ治療薬を予防薬として使用して副作用がでると、医薬品副作用被害救済制度の対象外になる可能性があるため、正当な理由で使用したことを記載した投薬・使用証明書が必要です。
投薬・使用証明書は医薬品医療機器総合機構の公式ホームページからダウンロードできるため、処方後に内服記録として記載しておきましょう。
また、投薬・使用証明書があるからといって必ずしも医薬品副作用被害救済制度の対象になれるというわけではない点に注意しましょう。
注意点②:費用は保険適用外(自費)
予防投与は保険対象外であるため、全額自己負担です。自由診療であるため受診先の医療機関によって設定されている費用は異なります。薬材料金に診察料金が加わり、およそ1万円前後が目安になると考えておきましょう。
また、インフルエンザの予防投与は自由診療であるため、保険診療とは処方日数が異なります。処方日数について知りたい方は、受診先の医療機関に確認しておくと良いでしょう。
注意点③:効果があるのは内服中のみ
インフルエンザ薬の予防投与の効果は、内服中のみです。予防投与は、周囲に感染者がいて、家族などの同じ空間内での感染拡大を防ぎたい時に有効です。家族に受験や大事な仕事を控えている方がいる場合に、短期的に感染を防ぐ目的で投与することがあります。
予防投与は長期的な予防を目的としてはいません。感染の疑いがある場合や重症化のリスクが考えられる場合に医師との相談の上、検討することをオススメします。
- 参考資料
- 厚生労働省"医薬品医療機器等安全性情報"(参照2023/10/2)
- 医薬品医療機器総合機構"医療費等の請求手続き"(参照2023/10/2)
- CAPS CLINIC"インフルエンザ薬の予防投与について"(参照2023/10/2)
- みどり病院"抗インフルエンザ薬の予防投与って?~効果と持続期間・かかる費用を解説します~"(参照2023/10/2)
効果的なインフルエンザ予防法5選
効果的なインフルエンザ予防法を5つ紹介します。
予防法①:手洗い・うがい・消毒
インフルエンザの予防の基本は、手洗い・うがい・消毒です。
手洗い・うがい・消毒を行うことで咳やくしゃみを介する空気感染や、ドアノブなどを介して移る接触感染の予防に効果的です。
正しい手洗いの方法については、厚生労働省の公式ホームページが参考になります。
予防法②:免疫を高める
免疫力が低下するとインフルエンザに感染しやすいだけでなく、合併症や重症化リスクも高まります。反対に免疫力を高められれば、インフルエンザに対する抵抗力が上がり、予防できるということです。
栄養バランスの良い食事や十分な睡眠時間を確保するとともに、規則正しい生活が送れるように心がけましょう。
また、適度な運動で代謝を促すと免疫力が高まり、感染しにくい体つくりやウイルスと闘うための体力が養われます。
予防法③:湿度の管理
湿度管理にも気をつけることも予防になります。なぜなら、鼻やのどの粘膜が乾燥すると体の防御機能が下がり、インフルエンザウイルスに感染しやすくなるからです。
とくに夏場や冬場でのエアコンの使用で空気が乾燥するため注意しましょう。また、小まめに水分補給をしたり、加湿器やエアコンにて湿度コントロールしたりするのも有効な手段です。
インフルエンザウイルスの感染力が最も弱いのは「湿度50〜60%」「室温18〜20℃」と言われています)。加湿器がなければ洗濯物を室内に干したり、濡らしたタオルを干したりするのも良いでしょう。
予防法④:人ごみを避ける
人ごみになればなるほど、インフルエンザウイルスの数も増えます。インフルエンザが流行する12〜3月は特に注意が必要です。
また、流行時期の場合は移動するなら公共交通機関は避けて、自家用車などを利用し、他者との接触を最小限にすることも予防法として有効です。とくに、高齢者や基礎疾患のある、妊娠中などの方は感染した場合、 重症化するリスクがあるため、感染しやすい場所を避けると良いでしょう。
どうしても人ごみを避けられない用事があるなら、飛沫感染の予防効果が高い不織布(ふしょくふ)製マスクを着用して、短時間で済ませることをオススメします。
予防法⑤:インフルエンザワクチンを接種する
流行時期に備えてインフルエンザワクチンを接種することも有効な予防法です。インフルエンザワクチンは不活化であり、接種することでインフルエンザに対する抗体が作られます。
ただし、インフルエンザワクチンの目的は発症率や重症化リスクを下げることであり、発症を完全に予防するものではありません。
6か月〜13歳未満は原則2回接種しなければいけないため、流行前に計画的に進めましょう。
まとめ: 後悔しないためにも予防投与も検討しよう
予防投与はインフルエンザ治療薬を内服中のみ効果を発揮します。そのため、受験や大切な会議など、どうしても別日に変更できない事情がある際に、予防方法の一手段として検討できると良いでしょう。
ただし、対象者や費用など予防投与を受ける前に注意点についても確認しておく必要があります。この記事でも解説しているので、ぜひご活用ください。