高齢になると不眠傾向になります。なぜなら、加齢による高齢者ならではの変化があるからです。
本記事では、高齢者の不眠に焦点を当てて、原因から予防までを網羅的に解説します。加齢に伴う睡眠の変化や生理的・身体的要因などを取り上げながら、高齢者不眠の特徴に合わせた予防法をお伝えします。
高齢者の不眠の特徴を詳しく解説
この章では、高齢者の不眠についての特徴や症状などに焦点を当てて見ていきます。
不眠症が疑われる高齢者の症状|4つのタイプ
不眠症が疑われる高齢者には、以下の4つの症状が現れます。
- 入眠障害
- 中途覚醒
- 早朝覚醒
- 熟眠障害
高齢者と一般成人で不眠の症状は大きく違いません。しかし、不眠になる原因は一般成人の方に比べて増えます。たとえば、夜間頻尿は特別な病気がない限り一般成人の時には考えられなかった不眠の原因です。
4つの症状について詳しく知りたい方は「不眠症の原因・症状となりやすい人の特徴」の記事が参考になりますので、ご覧ください。
- 参考資料
- 不眠症の原因・症状となりやすい人の特徴
不眠に悩まされる高齢者の割合
主観的な不眠症に悩まされる高齢者層(60歳以上)の割合は「約29.5%」であり、女性に多い傾向にあります。特に中途覚醒や早朝覚醒の割合は若年者に比べて「約2倍」あると言われており、高齢者は中途覚醒・早朝覚醒に悩まされやすいことがわかります。
また、実質睡眠時間についても、70歳代で平均「約6時間」と短いことから、平均睡眠時間という視点から見ても高齢者は不眠に悩まされるリスクが高いと言えます。
悪影響?不眠症が体に及ぼす問題とは
慢性的な睡眠不足は、2型糖尿病や高血圧・脂質異常症などの生活習慣病のリスクを高めます。
たとえば、睡眠不足になると食欲を抑えるレプチンと呼ばれるホルモンが減り、食欲を高めるグレリンと呼ばれるホルモンの分泌が増えます。結果として過食による肥満傾向、糖尿病や高血圧などになりやすくなるでしょう。
厚生労働省によると、成人の適正な睡眠時間は「6〜8時間」です。7時間前後の睡眠時間を確保できている人が、生活習慣病やうつ病の発症および死亡リスクが最も低いこともわかっています。
健康で過ごせる睡眠時間に調整することも不眠症の発症・悪化を防ぐ対策として重要です。
【高齢者】不眠になる3つの原因
高齢者が不眠になる3つの原因について詳しく見ていきましょう。
原因①:日中の活動性の低下
仕事を退職して日中自宅で過ごすことが増えると、不眠になるリスクが高まります。
「何もすることがない」という理由で日中転がって何もしないまま1日が過ぎる方もいるのではないでしょうか。転がって過ごしていると眠たくないのに寝る習慣がつき、入眠障害・中途覚醒を誘発しかねません。
また、筋肉量・骨密度の低下、腰痛など身体的な苦痛が増えることも活動量が減る理由として考えられます。
原因②:生活習慣病や基礎疾患の影響
生活習慣病や基礎疾患が原因で不眠になる方もいます。
たとえば、糖尿病は血糖値を下げるインスリンの分泌不良により血糖コントロールが難しくなる症状です。夜間の血糖値が安定せず血糖変動が激しいと、空腹感や気分不良などで中途覚醒になることも少なくありません。
他にも狭心症などの基礎疾患があり、夜間胸の締め付け感や呼吸のしづらさで寝付けない・途中で目覚めてしまうなどもあります。
このように生活習慣病や基礎疾患が不眠を助長することも十分考えられるのです。
原因③:認知症
認知症と非認知症の方を比較すると、認知症の方は睡眠が浅く、不眠が認知症を進行させることがわかっています。
重度の認知症になると1時間程度の連続した睡眠ができず、睡眠時間は長いものの熟睡感が得られないケースもあります。
その結果、日中の疲労感や集中力の低下、強い眠気から日中居眠りをしてしまうなどの悪循環が生じます。
また「せん妄」と呼ばれる意識がもうろうとした状態になると、不安や興奮が強くなり、攻撃性が高まるため周囲の人へ危害を加える危険性もあるでしょう。
一度生活リズムが崩れてせん妄になると、家族への負担は計り知れません。
原因④:加齢とともに睡眠が変化する
高齢者の睡眠は加齢とともに、以下の変化が生じます。
- 入眠困難になる
- 中途覚醒が増える
入眠困難になる原因は、活動時間の減少やホルモンの分泌能力の低下です。特に定年を迎えると自宅で過ごす時間が増えて、日中の活動量が減った結果、睡眠を誘発しづらくなります。
中途覚醒が増える理由は、加齢とともに眠りが浅くなることです。その結果、睡眠中の光や物音などの外的刺激に敏感になり、目覚めやすくなります。また、トイレが近くなることも中途覚醒を促す原因でしょう。
基本的に体調不良などの症状がなければ、様子観察で問題ありません。ただし、体調不良が3か月以上続くなら不眠症治療も含めて、一度医療機関に相談することをオススメします。
原因⑤:ホルモンバランスが変化する
加齢とともにホルモンの分泌能力が低下します。
特に入眠を促すメラトニンと呼ばれるホルモンの分泌量が低下すると、体内時計の乱れや入眠困難による不眠症に悩まされます。メラトニンは脳内の松果体で生合成される入眠を促すホルモンであり、光刺激によって分泌量が変化します。
たとえば、朝日を浴びると日中分泌が抑制され、夜間にかけて分泌量が増加していき入眠が促されます。そのため、メラトニンの分泌能力が低下すると体内時計がズレてしまい、寝たい時に寝れなくなるのです。
原因⑥:生理的・身体的要因で覚醒する
生理的・身体的な要因で不眠症になることも高齢者の特徴です。
たとえば、加齢変化で膀胱に溜められる尿量が減ると、夜間頻尿になります。特に加齢とともに「再々トイレにいくものの少ししか排尿がない」「尿を我慢できなくなった」などの自覚症状があれば、夜間頻尿による中途覚醒のリスクが高いでしょう。
この他にも、腰痛をはじめとする身体的な要因も不眠症を発症する原因です。特に腰痛持ちの高齢者は多く、一度痛みで覚醒すると再入眠が難しく、繰り返し覚醒するなど満足のいく睡眠が得られない恐れがあります。
- 参考資料
- 公益財団法人 長寿科学振興財団"運動機能の老化"(参照2024/2/9)
- NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター"アルツハイマー病と睡眠障害"(参照2024/2/9)
- 厚生労働省"高齢者の睡眠"(参照2024/2/9)
- 厚生労働省"メラトニン"(参照2024/2/9)
- 日本老年医学会"1.高齢者夜間頻尿の病態と対処"(参照2024/2/9)
【高齢者】不眠の4つの治療
高齢者における4つの不眠治療について詳しく解説します。
治療①:睡眠衛生の改善
睡眠衛生とは睡眠に関連する問題を解消し、睡眠時間の延長や質の向上を目的に、入眠方法や睡眠環境を整えることです。つまり、生活習慣の一部を改善することであり、日々の積み重ねが睡眠状況に影響を及ぼすことになります。
たとえば、規則正しい生活を送ることは自律神経を整えます。その結果、体内時計の乱れを調整でき、睡眠サイクルの安定化に役立つでしょう。
他の睡眠衛生の改善についても詳しく知りたい方は「不眠症の対策法とは?|生活改善で質の高い睡眠を手に入れよう」の記事で詳しく解説しています。
治療②:薬物治療
睡眠衛生の改善で不眠症の改善効果がない、もしくは重度不眠症で薬剤治療が必要と医師が判断したら、薬物療法の適応となります。
一般的に用いられる不眠症改善薬は、以下の表をご覧ください。
不眠症改善薬の種類 | 効果 |
---|---|
GABA受容体作動薬 | GABA受容体作動薬は中枢神経系のGABA受容体に作用して、興奮した神経を落ち着かせる薬剤の総称。神経の興奮を落ち着かせることで、気持ちをリラックスさせ、眠りへと導く |
メラトニン受容体作動薬 | 入眠を促すメラトニンと呼ばれるホルモンの分泌を増やし、自然な状態で床につけるようにサポートをする薬剤の総称 |
オレキシン受容体拮抗薬 | 中枢神経系に存在するオレキシン(覚醒を促すホルモン)と呼ばれる神経伝達物質の働きを弱める(受容体とオレキシンが結びつくのを防ぐ)ことで、眠気を誘発する薬剤の総称 |
治療③:漢方
漢方は身体のバランスを整え、睡眠の質を改善する目的で用いられます。ただし、漢方薬には薬剤のような直接的に睡眠を促す効果はないため、即効性は期待できません。
不眠症に用いられる代表的な漢方薬は、以下のとおりです。
不眠症改善薬の種類 | 効果 |
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黄連解毒湯 (おうれんげどくとう) |
不眠症やストレスによる神経過敏症状を和らげる効果 |
柴胡加龍骨牡蠣湯 (さいこかりゅうこつぼけいとう) |
情緒不安定や焦り、イラつきなどによる不眠症状を和らげる効果 |
治療④:カウンセリング
不眠症におけるカウンセリング治療は、患者とカウンセラーが対話を通じて心理的な要因や睡眠習慣、ストレスなどに焦点を当てるアプローチのことです。
カウンセリングでは、睡眠に関する思いを聴取しながら不安を共有し、それらに対する新しい認識や対処法を見つけます。
また、リラクセーション技法や睡眠環境の改善策もあり、症状の軽減や睡眠の質の向上が期待できるでしょう。
代表的なカウンセリングに「認知行動療法」があります。認知行動療法とは、普段から持っている考え方のクセや習慣を見直し、物事に対する別の見方を補う治療法のことです。睡眠薬の減薬に有効な治療として推奨されています。
不眠症には心身のバランスが影響することが多いため、薬物治療に加えて、カウンセリングが行えると総合的な治療効果が期待できます。
【高齢者】不眠に対するセルフケアによる予防
不眠はセルフケアによる予防で改善が見込めます。
前章で紹介した「睡眠衛生の改善」をより具体的な内容で紹介しますので、参考にしていただけると幸いです。
予防①:眠い時に寝床に着く
眠気を感じてから寝床に着く習慣をつけましょう。
眠たくないのに寝る習慣ができると、中途覚醒や早朝覚醒の原因になるからです。
特に定年後の高齢者は「起きていてもすることがないから」という理由で、早めに就寝する傾向にあります。結果として、中途覚醒が何度も繰り返され熟睡感が得られず、日中の疲労感や集中力の低下の原因になります。
また、生活リズムが乱れるため、適当な時間に入眠できなくなります。睡眠リズムが乱れると、活動と休息のバランスが崩れるため、心身への負担は計り知れません。
そこで、寝起きにカフェイン(コーヒーや紅茶など)を摂取して覚醒を促したり、朝日を浴びてメラトニン(入眠を促すホルモン)の分泌を抑えたりして、メリハリのある生活リズムに調整していくと良いでしょう。
予防②:日中の活動量を増やす
日中活動すると適度な疲労感が得られ、入眠を促しやすくなります。加えて、睡眠リズムが確立され、体内時計が整うメリットもあります。つまり、朝に目覚めやすく、夜には自然な眠気が訪れます。
活動量を増やすために具体的に意識すべきことは、夕方から夜(就寝の3時間くらい前)に散歩やウォーキングなどの軽い運動をすることです。運動により一時的に体温が上がり、その後寝るまでに下がるため、徐々に入眠が促せます。
その他にも適度な運動はストレス解消となり、夜間の不安感や焦燥感の軽減になるため、中途覚醒の改善効果も期待できるでしょう。
ただし、夜遅くの激しい運動は逆効果になるため、日中適切なタイミングで運動することがポイントです。
まとめ: 専門的な治療を受けたいなら医療機関に相談を!
高齢者の不眠の特徴について詳しく解説しました。加齢とともに睡眠状態やホルモンバランスなどが変化し、不眠傾向になります。そして、高齢者層(60歳以上)の「約30%」が何らかの不眠症状に悩まされていることもわかりました。
しかし、高齢者不眠は日々のセルフケアで発症予防できる余地があります。この記事でも高齢者不眠の特徴に合わせた具体的な予防法について詳しく解説したので、ぜひご活用ください。
また、より専門的な治療を受けたいなら、まずは医療機関に相談してみると良いでしょう。