RSウイルス感染症は乳幼児が感染すると、発熱や鼻水、咳などの風邪の症状に加えて、ゼーゼーという喘鳴や呼吸困難を引き起こすことがあります。重症化すると肺炎や無呼吸発作の危険もあるため、適切な対処が必要な感染症です。
RSウイルス感染症とは?症状の特徴を理解する
通常、RSウイルスに感染してから2〜8日(一般的には4〜6日間)の潜伏期間を経て症状が現れます。多くの場合、風邪のような軽い症状から始まりますが、一部の患者さんは下気道症状から肺炎に進展することがあるため注意が必要です。
特に乳幼児や基礎疾患のある人は、重症化するリスクが高いです。
RSウイルス感染症の主な症状は「呼吸器系の症状」「全身症状」に大別されます。
呼吸器系の症状
RSウイルス感染症における代表的な呼吸器系の症状は、以下の通りです。
咳、鼻水、くしゃみ | 一般的な風邪症状と似ており見分けにくい一方で、徐々に症状が増強する可能性があるため、注意深く観察する必要 |
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喘鳴 | RSウイルス感染で気管支が炎症を起こすと、空気の通り道が狭くなり、呼吸時に特有のゼーゼー、ヒューヒューという高音が出現 ※喘息:ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音が聞こえるなどが主な症状です。 |
呼吸数の増加 | 呼吸困難のため、通常より呼吸数が増える、息が荒くなる |
胸の陥没 | 呼吸が非常に苦しくなると、胸郭が陥没して動く(窮屈な呼吸のため) |
チアノーゼ | 重症化すると血中酸素濃度が低下し、顔面蒼白や皮膚色が紫色になる(顔面蒼白や紫色) |
乳幼児や未熟児、感染症への免疫が低い基礎疾患のある方に上記の症状が見られた場合、合併症を発症するなど命に関わる危険な兆候と考えられます。
全身症状
RSウイルス感染症における代表的な全身症状は、以下の通りです。
38度以上の発熱 | 38度以上の高熱を伴うことが多く、熱性けいれんのリスクもある。特に乳幼児は体温調節機能が未発達なため、高熱に注意が必要 |
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食欲不振 | 発熱や全身倦怠感により、普段より食欲が落ちる。長期化すると栄養失調の恐れがあるため、経口補水液などで水分・栄養を補給することが必要 |
高熱が続くと、以下のような脱水症状が現れる可能性があります。
- 皮膚のしわ、ゴム状の乾燥
- 泣き声が出にくい
- 脱水による尿量の減少
このような症状が見られた場合は、経口補水液や点滴などで積極的な水分補給が必要不可欠です。また、食欲不振が続く場合も、栄養補助食品などで適切な栄養管理が必要です。
RSウイルス感染症のハイリスク群とその原因
ハイリスク群①:乳幼児
乳幼児がRSウイルス感染症のハイリスク群である原因は、以下の2つです。
- 免疫機能が未熟なため、ウイルスに対する抵抗力が低い
- 気道が細く狭いため、RSウイルスによる気道の炎症で呼吸困難になりやすい
生後数ヶ月の乳児は免疫が未熟であり、特に生後6か月以内の乳児は感染しやすいです。一方で、生後6ヶ月以降〜2歳頃までには免疫機能が徐々に発達するため、RSウイルスに感染するリスクが下がり、6歳ごろには大人と同じだけの免疫力になります。
また、乳幼児の気管支は細く、炎症で容易に閉塞します。RSウイルス感染症に感染した20〜30%の乳児は下気道まで影響し重症化しやすいです。喘鳴音(ヒューヒュー音)や呼吸窮迫が出現した際は呼吸困難や重症化する直前である危険性が高いです。
ハイリスク群②: 高齢者
加齢に伴い免疫機能が低下するため、ウイルスに対する抵抗力が弱まる 高齢者には基礎疾患(慢性呼吸器疾患、心疾患など)を持つ方が多い高齢になるほど免疫機能は徐々に低下します。これは加齢や老化に伴ってT細胞の特異的応答能(抗原への対処法を記憶しておくこと)が低下するためです。
加えて、基礎疾患があると重症化リスクが高まります。呼吸器や循環器の予備能(通常の機能を超えて負担に対応できる能力)が低下しているため、若い頃は感染しなかったような弱いウイルスでも感染しやすく、重症化しやすい体になっていることが原因として挙げられます。
ハイリスク群③:基礎疾患がある方
- 慢性呼吸器疾患があると、呼吸機能が低下している
- 免疫抑制状態にあると、ウイルスに対する抵抗力が乏しい
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息など呼吸器疾患を抱えている方は、感染しやすく、重症化のリスクも高いです。なぜなら、基礎の呼吸機能が低いからです。
また、免疫不全の基礎疾患のある方、免疫力が低下する治療を行っている方(がん化学療法、ステロイド使用中、臓器移植後、HIV感染症など)も感染しやすいことが予測されます。
RSウイルス感染症の合併症
RSウイルス感染症には重症化する恐れのある合併症があります。そのため、症状が落ち着くまでは注意深く観察が必要です。
合併症①:肺炎、細気管支炎
RSウイルスが下気道に達すると、肺や細気管支に炎症を引き起こします。肺炎や細気管支炎は肺や気管支に炎症が起こり、呼吸機能が低下することで咳が続き、発熱や呼吸困難が強くなります。
また、場合によっては胸痛や息切れ、痰の増加などの症状も出ます。喘鳴が強く呼吸が苦しくなり、ゼーゼー、ヒューヒューという高音の呼吸音が聞こえたら注意が必要です。
いずれも適切な治療を受けないと重症化する恐れがあり、最悪の場合、酸素療法や気管内挿管、人工呼吸器管理が必要になることもあります。症状が軽い場合は、内服薬による治療で回復も見込めます。
合併症②:喘息
RSウイルス感染症にかかった乳幼児は、後に喘息を発症するリスクが高まることが知られています。これはRSウイルスが気道に炎症を引き起こした結果、アレルギー疾患になりやすい免疫状態になり、その後気道過敏性になるためと考えられています。
3歳までにRSウイルスによる細気管支炎を発症すると、7歳半までに喘息になる確率は10倍以上になると考えられています。
合併症③:中耳炎
RSウイルス感染症による中耳炎の主な症状は以下の通りです。
耳痛 | RSウイルス感染に伴う中耳への炎症により、激しい耳の痛みが生じる。乳幼児の場合、耳を引っ張ったり触ろうとしたりする様子がみられるため、このような症状が現れたら注意が必要 |
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発熱 | 中耳炎では38度以上の高熱を伴うことが多くみられる |
耳漏 | 中耳の膿が外耳道に流れ出て、耳からの排液(耳漏)が見られる |
難聴 | 中耳の炎症が進行すると、一時的な難聴や耳鳴りを引き起こすことがある |
頭痛 | 中耳と頭蓋内が近接しているため、中耳炎では頭痛を伴うケースもある |
RSウイルス感染症による中耳炎は、上記のような症状から発見されることが多くなります。
また、2歳児未満の急性中耳炎の発症率は「73.1%」、年長児なら「29.7%」です。特に乳幼児の場合、耳痛による啼き声や機嫌の悪さ、発熱などの症状から疑われます。
中耳炎は放置すると難聴などの合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。
合併症④:無呼吸発作や急性脳症
重症化すると一時的に呼吸が止まる無呼吸発作を起こしたり、急性脳症を併発する危険性があります。無呼吸発作は特に新生児で起こりやすく、命に関わる重大な症状です。
急性脳症とは急激な脳の浮腫によって意識障害などの重篤な症状が現れる症状のことです。無呼吸症候群と併せて迅速な治療が必要不可欠です。また、集中治療室での呼吸・循環管理や脳症治療が行われるケースがあります。
RSウイルス感染症の症状が改善しない場合は早めに受診を
RSウイルス感染症の治療は特効薬がないため、基本的には対症療法が行われます。症状が改善しない場合や水分が摂れない、呼吸が苦しそうな場合は、早めに病院を受診しましょう。
症状が悪化したり、脱水を起こしたりしていると入院して点滴や酸素吸入などの治療を行うこともあります。
一方で、RSウイルス感染症と診断されたものの機嫌が良く、辛そうでなければかかりつけ医に相談するのがおすすめです。
まとめ:RSウイルス感染症に冷静に対処し、適切な行動を
RSウイルス感染症が重症化すると、肺炎や中耳炎、さらには命に関わる無呼吸発作や急性脳症などの深刻な合併症を引き起こす恐れがあります。
冷静な対応と必要に応じた迅速な受診が何より大切となり、適切な治療を受けることで合併症のリスクも抑えられます。
参考資料
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